06 2020.12.04

REDS TOMORROW
「Red Wind」

バックナンバー
掲載

「REDS TOMORROW」は浦和レッズパートナーの朝日新聞社と浦和レッズが協同発行しているタブロイド紙です。
浦和レッズホームゲームの前日に朝日新聞朝刊に折り込まれます。

REDSDENKI

No.308 10.23発行

宇賀神友弥と山中亮輔。互いに高め合う左サイドバック

スポーツライター 杉園昌之

切磋琢磨(せっさたくま)。辞書を引くと、「仲間同士、互いに励まし合って向上すること」とある。今季、宇賀神友弥が繰り返し口にしている言葉だ。自らに言い聞かせながら、ポジションを争う味方の奮起も促している。
「同じポジションでプレーする選手の調子が悪いから、その代わりに試合に出るというサイクルでは、互いに成長しないと思います。練習からいい状態の選手を超えるくらいのパフォーマンスを見せて、監督を悩ませるくらいじゃないと、チームとしても強くなっていきません」
9月30日のFC東京戦から宇賀神が左サイドバックとして5試合連続出場しているが(10月23日発行時点)、シーズン半ばまでは優先順位は高くなかった。ケガの影響はあったものの、己を見つめ直し、試合に出ている選手たちをじっと観察していた。あきらめずにコツコツと努力を積み重ねた結果、つかんだ出場機会である。
それまで重用されてきたのは、一芸に秀でた加入2年目の山中亮輔。左足から繰り出す正確無比のキックで好機を演出し、果敢にゴールまで狙う。今季、大槻毅監督に求められている、中央に入っていく攻撃参加のポジション取りも巧み。前所属の横浜F・マリノス時代に変則的な動きは経験済みで一日の長があった。
10月に入って二番手の存在になりつつあるが、決して調子が悪いわけではない。9月23日の清水エスパルス戦では周囲の度肝を抜くような豪快なミドルシュートを決めている。ピンポイントで味方に届けるクロスボールも相変わらずの高精度。「キャリアハイの成績を残す」と意気込んで新シーズンに臨んでおり、このまま終わるわけにはいかない。
年齢を重ねた宇賀神は現コーチの平川忠亮から現役時代に気にかけてもらったように、後輩たちにハッパをかけている。生え抜きの32歳は、平川の言葉をずっと胸に留めている。
「同じポジションの選手たちはライバルではない。互いに高め合っていく仲間」
それぞれ壁が高ければ高いほど、乗り越えたときに大きなリターンを手にする。山中にとっては、秋は試練のときか。リーグ終盤戦もタイトなスケジュールで戦うなか、チャンスは何度も巡ってくる。目の前の先輩から要所を抑えた守備のポジショニング、的確なコーチングを盗んで体得したとき、ひと回り大きくなれるはず。そのきっかけを、いつどこでつかむのか。一戦一戦、注目していきたい。

No.307 10.17発行

攻撃的な良い流れを手放すな

サッカージャーナリスト 国吉好弘

9月26日の横浜FC戦から10月4日の名古屋グランパス戦まで、ホームでの3連戦を3連敗というあってはならない結果で終えた。しかし、続く10日のサガン鳥栖戦では、アディショナルタイムに入っての汰木康也の決勝ゴールで4試合ぶりの勝利をつかんだ。この時点で暫定9位だが、今季目標に掲げている来季のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場圏内という意味では、まだ可能性は残されている。
今季は特別なシーズンで、天皇杯にはJ1の1位、2位しか出場せず、そのどちらかが優勝する可能性は高い。そうなれば来季のACLにはリーグの4位までが出場できる。第21節終了時点で4位のガンバ大阪との勝点差は8で、逆転が不可能な数字ではない。もちろん、G大阪も含めて5チームを追い越さなければならないのだから簡単なことではなく、残り試合をかなりの勝率で進めなくてはならない。
それでもポジティブな要素はある。敗れたFC東京戦、名古屋戦は、結果はともに0−1だが、試合の内容では決して引けを取っていなかった。むしろ優勢に進めていた時間が長く、いくつかの決定機も作り出した。ともにJ1上位を占める相手に、互角以上の戦いができることを示したのだ。そして、鳥栖戦では3連敗の悪い流れを断ち切ろうと気迫のこもった戦いを見せ、最後まで諦めずに勝利を手繰り寄せた。
柏木陽介が中盤の中央でプレーすることでボールが動き、効果的な縦パスも入るようになった。またスタメンで起用されたマルティノスがアグレッシブなプレーで攻撃を活性化させている。鳥栖戦の決勝点もフル出場に近い時間プレーしたにも関わらず果敢にドリブルで仕掛けた。時に独りよがりになり、守備面での細かい修正ができないマイナス面があり、これまで出場時間を制限されてきたが、名古屋戦と鳥栖戦に関しては攻撃に勢いをもたらした。
汰木にしても、持ち味のドリブルを生かして良いプレーも見せていたが、得点という結果に至らなかった。それが重要なゴールを挙げたことで、一皮むければさらなる活躍が期待できる。
柏木、マルティノス、汰木とそろうと、守備の面では不安も残るが、この良い流れを逃してはならない。チームのベクトルが前を向いて攻撃的な部分で良いプレーができているときでなければ勢いは生まれない。
堅実に戦うことも必要だが、こんな時期だからこそポジティブな部分を前面に押し出して、サポーターを喜ばせるような試合をしたい。それが結果にもつながるはずだ。

No.306 10.3発行

「ベテラン」ではない。「プロフェッショナル」だ。
槙野智章が示すメンタリティー

スポーツライター 飯尾篤史

浦和レッズの最終ラインで見慣れた光景が今シーズン、変わった。これまで絶対的な存在だった槙野智章の姿がなかったのだ。
岩波拓也、鈴木大輔、マウリシオ(8月にポルティモネンセに期限付き移籍)、さらにはトーマスデンも加わったセンターバックのポジション争いにおいて、序列が大きく後退したことを意味していた。
2年前には日本代表としてワールドカップの舞台に立ち、昨年にはアジア最優秀選手候補にノミネートされた男も、今年33歳を迎えた。
いよいよ世代交代か——。そんなふうにも囁(ささや)かれた。
しかし、公式戦6試合でわずか1分間しか出場時間がなく、4試合でベンチにすら入れなかった男は、初先発となった7月26日の横浜FC戦で結果を残して序列をひっくり返す。そして8月15日のサンフレッチェ広島戦から、10試合連続スタメン出場を果たすのだ。
シーズン序盤、サブ降格の現実を突きつけられた槙野は「そりゃ、悔しいですよ」とショックを受けていた。だが、その一方で、こんな風にも語っていた。 「取り返せるチャンスはいくらでもありますからね。それに、新鮮でもあるんですよ。これまでは試合に出るのが当たり前だったから、こういう状況を迎えて、自分のプレーを見直したり、やるべきことを整理したりするいい機会だなって。自分はとにかく与えられた仕事を一生懸命こなすだけ。ウダウダ言ってはいられない。だから、今年はいろんなものが見える1年になるんじゃないかなって」
その言葉に嘘(うそ)がなかったことは、ポジションを奪い返した事実によって証明されている。
見事なまでのリバウンドメンタリティーだ。
今季、大槻毅監督はメンバーを入れ替えながら戦っている。過去に類を見ない過密日程だから、コンディションの良いメンバーを選ぶのは当然と言える。だが、クラブが立てた3年計画の1年目にあたるため、未来を見据えた起用もあるかもしれない。いずれにしても数試合前までスタメンだった選手がベンチ外になることもあり、モヤモヤした気持ちを抱く選手もいるだろう。
しかし、彼らも槙野の鮮やかな復活劇を目の当たりにして、文句など言っていられないに違いない。
「自分ではまだベテランとは思っていない」と槙野自身が言うから、「ベテラン」という表現は使わない。このプロフェッショナルな経験者から、学ぶことはたくさんあるはずだ。