連載「素顔の選手《REDSげんき》」
Episode4 ぼくの宝物
柴戸 海(しばと かい)22 MF
僕が大事にしているのは「守破離(しゅはり)」という言葉です。
守る、破る、離れるという言葉を合わせたものですが、まず「守る」というのは、師匠からの教えを守り、それに対して向き合っていくということです。そして、教わったことをしっかりやっていく中で、それを発展させてそこを破って出ていくというのが「破る」です。さらには、そこから離れて別の自分の型にしていく、というのが「守破離」という言葉の意味するところです。
僕がこの言葉を初めて聞いたのは、市立船橋高校時代の監督、朝岡隆蔵先生からです。
サッカー部のミーティングのときに言われたのですが、最初は何を言っているのかわからなかった、というのが正直なところでした(笑)。先生も、その意味をその場で説明してくれたわけではなく、「自分で調べてやってみろ」と言われました。調べていく中で、意味をだんだん理解していって、言葉にはすごく大事なものが詰まっているなと思いました。もともとは千利休の茶道の教えの中から生まれた言葉のようです。
それで僕も、まずは朝岡先生からの教えを素直に受け入れて、それをまず実践してみようというところから入りました。それがある程度できるようになって、そこからより自分が成長していくために、言われたことだけやっていてはいけないということで、それをより発展させて、ある意味で教えを突き破るというか、自分がある程度やり続けられるようになったものを、より高いレベルでできるように、というところはやってました。サッカーでもそうですし、人としても成長していくために必要な考えだと思っています。
チームメイトとこれについて話したこともなかったですし、朝岡先生からこの言葉を二度,三度と聞いたこともありませんでした。あのときの一度だけです。
朝岡先生は、いろんな難しい言葉を使いながら学ばせてくれた監督で、その中でもこの言葉は本当に強烈な印象として残っています。
高校時代に自分が「離」まで到達した感覚はなかったです。
サッカーに関しては、周りに自分を含めてプロを目指す選手が多い中で、高校からそのままプロに行く選手がいることを考えれば、自分は「守」の部分にかなり時間をかけた感がありました。
僕は明治大学に進みましたが、大学に行ったら大学の監督の教え、守るべきものがありますから、大学の間も変わらず「守破離」を意識してやってきました。
レッズでプロになって今年で6年目ですが、「守破離」に基づいて言うと、今は小さい頃から積み上げてきた型というのを破っていく「破」の部分だと思っています。これを続けてやっていかなければいけない段階です。
一番大事なのは千利休も「本(もと)を忘れるな」と言っているんですけど、今までやってきたことの中でも、基本のところは忘れてはいけない、初心を忘れるなということです。プロは、やっぱり上の高いレベルでやり続けなきゃいけないところですから、いろんなものを忘れがちだと思うんです。そういう中で自分が今まで築いてきたものとか、初心に帰る、というところは大事だと思いますし、それがあるからこそより成長できるのかなと思います。
ずっとレッズを見ているメディアの方から「海くんは今年、こういうところが成長したね」と言ってもらえるのは非常にうれしいことです。自分自身、毎年同じではいけない、昨年より成長した自分をピッチで表現しよう、というのはすごく意識していて、特に攻撃の部分で積み上げを目指しています。
レッズでやっていると、レベルの高い選手たちが入ってきて、それぞれの選手の特長があります。そういう選手たちから学ぶこともありますし、自分の強みを生かしつつ、自分が持っていないものを積み上げるということは「守破離」の中で学んできたことですし、それをどうすれば自分のものにできるかというところも高校大学と学んできました。それを実践の中で出せるところまで持っていくのが大事です。
今年、短い時間ですけどACLの決勝にも出場しました。
そこで感じたことは、相手にとって脅威になる選手が一番なのかなということです。ゴールに貪欲というか、もっとゴール前で仕事できるようになりたいというのは強く思っています。それには、今までの自分がよくプレーしている位置よりゴール近くに居ないといけないですし、バランスとかタイミングをどうするかをよく考えていきたいと思います。
一番わかりやすいのはクロスに対して自分がゴール前に入っていくことだと思います。そういうところもやっていって「柴戸が言ってたのはあれだ」と見てもらえるようになりたいです。
今年はリーグ戦であまり試合に出ていませんが、自分の基礎となるところを持ちつつ、それを破って成長してきた部分を発揮し、相手にとっては脅威で、味方にとっては安心できる選手になりたいと思いますし、出た時にチームを勝たせられる試合をしたいと思います。
マチェイ スコルジャ監督は、選手をよく見てくれています。練習でしっかりやっている選手や結果を出している選手にチャンスを与えてくれるので、チャンスが来たときにやってきたことがオートマティックに出来るようにしていきたいと思います。
柴戸 海/1995年11月24日 神奈川県横浜市生まれ
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