No.309 11.17発行
興梠&武藤の熟練コンビに注目したい
スポーツライター 飯尾篤史
J1での9年連続ふた桁得点の大記録に向けて、興梠慎三がスパートを掛けている。
第27節の横浜F・マリノス戦を終えた時点で9ゴール。締め切りの都合で11月18日のヴィッセル神戸戦の結果は分からないが、もしかすると、偉大な記録が達成されているかもしれない。
もっとも、今季は順調にゴールを重ねてきたわけではない。
「今年はゴールがあまり取れないかもしれない」
興梠がそう打ち明けたのは、リーグ再開を控えた今年6月のことだった。コンビを組むことが濃厚だった新加入選手のレオナルドはボックス内で仕事をするストライカー。そのため、「今年は自分がサイドに流れることが多くなる」と考えていたのだ。
実際、レオナルドが得点を重ねる一方で、興梠のゴール数は伸びなかった。折り返し地点となる第17節を終えた時点でわずか3ゴール。過密日程のためにターンオーバーが採用され、例年よりも出場時間が短くなったことも要因だった。
ところが、シーズン終盤に差し掛かった10月14日の柏レイソル戦で5ゴール目を奪うと、その後の5試合で4ゴールと、量産し始めたのだ。
果たして、興梠に何が起こったのか。
理由のひとつが、パートナーの存在だろう。興梠のゴールラッシュが始まった時期と、武藤雄樹とコンビを組むようになったタイミングがピタリと合致するのだ。
柏戦以降の5ゴールには武藤のアシストによる得点はひとつもない。だが、ポストプレーが巧みな興梠と衛星的に動き回る武藤の相性は抜群で、どちらかがニアに入れば、もうひとりはファー、
どちらかが裏を狙えば、もうひとりが中盤に顔を出し、連係面もばっちり。それが、興梠のシュートチャンス増加に繋がっているのは確かだろう。
かつてアルゼンチン代表にガブリエル・バティストゥータとエルナン・クレスポという、ふたりのセリエA得点王がいた。しかし、時の代表監督であるマルセロ・ビエルサは彼らを前線で並べることはなかった。
ポジショニングが被り、互いの良さを消し合うからだ。
1+1が3や4にもなれば、0・5になることもある。それが、2トップの人選の難しさ。
今の浦和レッズの前線を見ると、改めて相性の大切さを感じずにはいられない。残り5試合、興梠と武藤による熟練のコンビネーションを堪能したい。(11月17日発行時点)