No.389 7.26 発行
戦う姿勢を問い直せ!FCWCで成長した安居海渡に期待
国吉好弘 サッカージャーナリスト
FIFAクラブワールドカップ2025(FCWC)でのグループステージ敗退を経て、世界レベルの貴重な経験を糧に明治安田J1リーグでの巻き返しを期待された浦和レッズ。だが、再開直後のFC東京戦では終盤に逆転されて敗れた。先制され2点を返した前半はともかく、後半は終始主導権を握られてFCWCでの経験が生かされていない不甲斐ないプレーぶりだった。
FCWC後に3週間のインターバルがあり逆に難しくなった面もあったが、新戦力として加わった小森飛絢のトップ起用も効果が見えず、これまでも課題とされてきたように後半のメンバー交代で悪い流れを変えることもできなかった。何よりプレーの強度、球際の厳しさで相手に後れを取ったことは残念だった。
この日のようなプレーではここから反攻して優勝をつかむことを望むのは難しい。だが、このまま引き下がるわけにはいかないことは選手、スタッフ誰もが強く肝に銘じているはずだ。コンディションを整え、戦う姿勢を問い直して臨み、本来の力を発揮することができれば、力の拮抗するJ1で勝てない相手はない。レッズにはそれだけの総合力はあるはずだ。
チームが勢いを得るために期待したいのが安居海渡だ。FC東京戦でも素早いボール奪取から鮮やかなシュートを決めたように、FCWCを経て最も成長したと思われる。モンテレイ戦で相手の強烈なミドルシュートで2点を失い、ゴールを目指す積極性に触発されたと語り、その経験が生かされていた。プレー全般にアグレッシブさが増し、自信をつけているように映る。その姿勢を周囲に伝搬させてチームの力を引き出す火付け役になってもらいたい。
冷静にボールをさばくサミュエル グスタフソンとのコンビもスムーズになっており、ゴールに絡む決定的な仕事から守備への貢献度も高い渡邊凌磨を軸とする中盤の中央は、J1でも屈指の陣容と言える。両サイドの金子拓郎、マテウス サヴィオの打開力も高い。中盤はチームの強みでありその潜在力を十分に発揮させたい。
そのためにはディフェンスラインとの連系を高めてボールを支配する時間を増やしたい。後ろがボールを持った時に中盤で受けるポジションがあいまいなところを整理してボールを失わずに循環させなければならない。
ホーム埼玉スタジアムでFC東京戦のようなプレーをしてはならない。ここで本来の力を取り戻した姿を見せることができればまだまだ望みはある。
No.390 8.15 発行
今夏加入のFW小森飛絢(ひいろ)が持つ“嗅覚”
杉園昌之 スポーツライター
公式戦5試合に出場し、4ゴールを記録。今夏、途中加入したFW小森飛絢(ひいろ)の勢いが止まらない。レッズのデビュー戦となった明治安田J1リーグ第24節FC東京戦こそインパクトを残せなかったが、それ以降の働きぶりは目を引くばかり。7月23日の第21節湘南ベルマーレ戦ではCKから頭で合わせて移籍後初ゴール。続く8月6日の天皇杯4回戦・モンテディオ山形戦はペナルティーエリア付近の混戦から技ありのシュートでゴールネットを揺らし、チームを救う決勝点を挙げている。
圧巻だったのは、公式戦で3試合ぶりに先発メンバーに名を連ねた8月9日の第25節横浜FC戦。0-0で迎えた8分、左サイドを突破した金子拓郎からの折り返しは相手GKに一度弾かれたものの、素早く反応して先制点をマーク。「拓郎くんのボールが良かったので、僕は詰めるだけでした。拓郎くんのおかげです」と振り返ったが、こぼれ球を逃さない集中力こそ小森の真骨頂である。
昨季、J2リーグで23ゴールを挙げて、得点王に輝いた実績は本物。1点リードの53分にも相手GKが取り損ねた球を押し込んでいる。偶然、目の前にチャンスボールが転がってくるわけではない。「常に狙っているし、予測もしています」。その短い言葉には自信がにじんでいた。
2ゴールを挙げて、今季のアウェー2勝目に大きく貢献したストライカーは、すでに仲間からも確かな信頼を得ているようだ。かつてイタリアのセリエAでもプレーし、中盤の舵取り役をになっているサミュエル グスタフソンは、非凡な得点感覚に最大の賛辞を送る。
「イタリアで活躍しているストライカーと同じようなタイプ。彼はゴールの匂いを嗅ぎ分ける嗅覚を持っています。まるでフィリッポ インザーギのようですね」
かつて名門のACミラン、ユベントスなどで活躍した元イタリア代表の名FWも、こぼれ球を押し込んで多くのゴールを積み重ねた一人。まさに点を取る職人だった。ただ、小森は点を取る以外の仕事もこなし、攻撃を機能させているという。寡黙な本人が多くを語らずとも、ピッチ全体を見渡すグスタフソンはその献身性を高く評価している。
「彼はゲームプランを忠実にこなせるFWです。前線で起点になりますし、味方のスペースをつくるためにおとりになる動きを厭うこともありません。ゴール以外でも良い仕事していると思いますね」
チーム全体に波及する小森効果。上位浮上のキーマンになる予感が漂う。
No.391 8.30 発行
あきらめるのは早い
大住良之 サッカージャーナリスト
通常、リーグ戦で逆転可能な勝点差は残り試合数と同程度と言われている。明治安田J1リーグ第27節を終え、残り11試合で7位のレッズは勝点44。首位の京都サンガF.C.と鹿島アントラーズが51で、7差は数字のうえでは「逆転は可能」と見ることもできる。
ただ今季は、この2クラブ以外に4クラブが小差で上位に固まっているという特殊な状況にある。3~5位の町田ゼルビア、柏レイソル、ヴィッセル神戸が50、6位のサンフレッチェ広島は49。ターゲットが1、2クラブなら、一般論では「逆転は可能」だが、6つもの実力派クラブがそろって調子を落とす可能性は小さい。柏戦を勝ちきっていればまったく違った状況だっただけに、あの敗戦は痛かった。
前節の柏戦は、結果以上につらいものがあった。前半2点先行したが、ほぼ1試合にわたって柏にボールを握られ、防戦一方のなかで後半4点を取られるという展開だったからだ。だがこのショックを引きずっているヒマなどない。
ひとつの希望は、残り11節で上位6クラブのうち4クラブとの対戦が残っていることだ。9月には鹿島、10月には神戸、町田、そして11月には広島との対戦があり、そのうち3試合はホームという大きなアドバンテージがある。さらに町田、神戸、広島の3クラブは、ACL出場のためにすでに第30節の試合を消化しており、残り試合はレッズより1試合少ない。
2025FIFAクラブワールドカップ終了後はほぼ1試合2点以上取れるようになったレッズ。元スウェーデン代表のFWイサーク キーセ テリンの加入も決まった。最前線に190センチというテリンの長身が加わることで、スピードを主体としてきたレッズの攻撃が一挙に多彩になり、破壊力を増すだろう。
だが、勝利で得られる勝点は3と決まっている。首位争いのクラブに対する身を削るような1勝も、下位クラブに対する安定した勝利も、勝点のうえではまったく同じだ。1試合1試合着実に勝点を積み重ねていくことによってのみ、「奇跡」の可能性が開けてくる。
あすのアルビレックス新潟戦は、レッズにとって「奇跡」へのスタートの1戦と言える。何としても勝点3が必要だ。あの屈辱の柏戦から9日、チームとサポーターのリバウンドメンタリティーがいまほど試されていることはない。みんなが一体となって、勝点3をつかみ取らなければならない。あきらめるのは早いのだ。