No.311 12.18発行
一時代の最後を浦和のための戦いに
サッカージャーナリスト 大住良之
おそらく大きな時代の変わり目となるあすの北海道コンサドーレ札幌戦。それは、12年にミシャことミハイロ ペトロヴィッチ監督着任とともに始まったレッズのひとつの時代の終わりを意味している。
5年間の右肩上がりの成長の末、17年に完成し、「最強のレッズ」が生まれたと思った瞬間に訪れた破局。そこから、堀孝史監督、オズワルド オリヴェイラ監督、そして大槻毅監督の下、レッズはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)を制し、天皇杯を獲得し、またACLで準優勝という栄誉を獲得してきた。しかしその間の主力はミシャ時代と大きくは変わらず、そのチームも終焉に近づいている。
レッズは今年、強化の「3年計画」をスタートしたが、1年で監督が交代。新監督の下で新しいチームづくりを始めることにした。「飛躍の年」になるはずだった21年は、もういちど「再スタートの年」となる。
だがそれは人生ではよくあることだ。私も、何時間もかけて完成に近づいていた原稿がパソコンの操作ミスにより一瞬で飛んでしまったことが何度もある。当然、最初の1行から書き直しだが、そんなときには「新しい原稿のほうが絶対に良いものになる」と言い聞かせて自分を奮い立たせる。レッズも、「より良いもの」にするために再スタートを決めたはずだ。
難しいのは、再スタートの前にも試合があることだ。大槻監督の退任が決まってから、レッズは難しい時間を過ごしてきた。あすの札幌戦も難しい試合であるのは間違いない。だが場所は埼スタ。難しいだろうが、赤いユニホームの誇りを感じさせる試合にしなければならない。
「誰が点を取るかなどに関心はない。赤いユニホームの選手が取ればいい」
今季、大槻監督は繰り返しそんなことを語った。それは、「チームが勝つために、浦和のためだけに百パーセントの力を発揮してほしい」というメッセージでもあった。サッカーという競技の本質をついた重要な哲学である。
ミシャの下で始まったひとつの時代が、ミシャのチームを相手に終焉を迎えるというのは、運命のいたずらかもしれない。その試合を、ぜひともこの9シーズンの「レッズの誇り」を思い起こさせるものにしてほしい。難しい状況を乗り越え、「レッズのため、浦和のため」に戦い抜くサッカーを見せてほしいと思うのだ。