No313 03.09発行
新時代の息吹
サッカージャーナリスト 大住良之
新しい時代がスタートした―。そんな思いを強くさせた開幕戦だった。昨年は連敗に終わったFC東京に対し、レッズはボールを支配し、失ってもすぐに奪い返し、90分間、「リカのサッカー」を体現した。阿部勇樹の1点を守り切れず1-1の引き分けに終わったのは残念だったが、新時代のスタートは上々と言える。
ボランチに伊藤敦樹、右サイドに明本考浩、トップ下に小泉佳穂。新加入の3人が伸び伸びと力を発揮した。39歳の新キャプテン阿部が、心機一転のFW杉本健勇が、そして背番号を4に改めた岩波拓也が、まだ未完成ながら、リカルド ロドリゲス新監督(リカ)のサッカーの方向性をしっかりと示して見せた。
的確なポジショニングでパスをつないでボールを支配し、相手ボールになったら最前線からの積極的なプレスで奪いに行く。リカが目指すサッカーの一面は、今季初戦でもはっきりと見てとることができた。なかでも1人目が全速力でアプローチし、2人目、3人目が寄ってきてあっという間に囲い込んでしまうプレスの迫力は、頼もしさを感じさせた。
さらに、3日後のルヴァンカップ湘南戦では、GK鈴木彩艶、DF藤原優大、DF福島竜弥といった「18歳トリオ」が公式戦デビュー、堂々としたプレーで「底上げ」を感じさせた。
もちろん残された課題はある。最後のところで攻撃がアイデア不足になり、押し込みながらそう多くは決定機をつくれなかったことだ。だが、それは今後2カ月、3カ月の間に急速に改善されていくだろう。
レッズの歴史のなかで、プレーが大きく変革されたことが過去に2回あった。2002年にハンス・オフト監督が就任したとき、そして2012年にミハイロペトロヴィッチ監督が就任したときだ。2人の監督はパスをベースに相手を圧倒するサッカーをつくりあげた。しかしその1年目の前半を思い出してみれば、パスはつながるが危険な攻撃ができないという状況だった。
その過去2回と比較すると、「前線からの強度の強いプレス」が加わった分だけ、今回の「変革」は相手陣に押し込むことができ、チームづくり、新戦術定着の進捗(しんちょく)が早いように感じる。3月、4月はまだまどろっこしい面があるかもしれない。しかし数カ月後には必ず「リカのサッカー」が花開くはずだ。その「成長過程」を見守るのも、今季前半の大きな楽しみのような気がする。
No314 03.20発行
新しい潮流に乗り遅れないため「大事なのはチャレンジを止めないこと」
スポーツライター 飯尾篤史
清々しいほどの完敗だった。3月14日に行われた明治安田生命J1リーグ第4節、横浜F・マリノス戦のことだ。立ち上がりから相手の強烈なプレスに飲み込まれ、前半のうちに2失点。55分にもカウンターからダメ押し点を許した。
これでリーグ戦1勝1分2敗。4試合を終えて現在地が見えてきた。
1−1に終わったFC東京戦や2−0と勝利した横浜FC戦では、相手の立ち位置を見ながらポジションを入れ替え、ボールと相手を動かしながら主導権を握る攻撃ができていた。
一方、敗れたサガン鳥栖戦と横浜FM戦では、相手のプレスによって思うような攻撃をさせてもらえなかった。
プレッシャーが緩ければ、トレーニングで身につけたことが出せるが、激しく来られた場合、それをかわすだけの力はまだ備わっていない。それが、現在地だ。
しかし、それも当然のことだろう。改革は1日にしてならず——。
この4年で3度J1王者に輝いた川崎フロンターレも、スタイル構築には多大な時間を要した。風間八宏監督を招聘したのは12年。技術を徹底的に磨き、ボールを保持して主導権を握るスタイルに着手した。風間体制の5年間は無冠に終わったが、そのときに修練したことが鬼木達体制で開花した。
「似たスタイルのチーム」とリカルド ロドリゲス監督も認める19年J1王者の横浜FMも、アンジェ
ポステコグルー監督招聘1年目の18年は、ビルドアップで手痛いミスを繰り返して失点を重ね、残留争いに巻き込まれている。
「勝つことこそがスタイルだ」と言い切り、国内最多タイトルを獲得してきた常勝軍団の鹿島アントラーズでさえ、時代の流れに合わせ、選手の立ち位置を重視した再現性のある攻撃を構築している最中だ。
浦和レッズが取り組むスタイルも、大枠で見れば、川崎Fや横浜FM、鹿島と同じ「ポジショナルプレー」で、世界の潮流に沿ったもの。針路は、間違っていない。
逆に言えば、今トライしなければ、ライバルに遅れをとり、時代に取り残されることになる。
「大事なのはチャレンジを止めないこと。これで安全なプレーや腰の引けたプレーをしていたら、完成度は高まらない。みんなで声を掛け合って、逃げずにやり続けたい」
新加入ながら主力となった小泉佳穂は横浜FM戦後、きっぱりと言った。この覚悟こそ、今の浦和レッズに必要なものだ。
No315 03.26発行
「日本で一番じゃないといけない」GK鈴木彩艶の覚悟
スポーツライター 杉園昌之
YBCルヴァンカップ開幕の湘南ベルマーレ戦は、レッズのゴールマウスが随分と小さく見えた。190cm、91kgのがっちりとした体は、数字以上に迫力満点。GK鈴木彩艶(すずき・ざいおん)の堂々とした立ち姿は、18歳とは思えぬ雰囲気を醸し出している。
ただ大きいだけではない。前半から立て続けに飛んできた強烈なミドルシュートに鋭く反応。セービングにも安定感がある。相手にこぼれ球を拾われないようにしっかり外に弾き出す。正面へのパワフルなシュートも柔らかく包み込むようにキャッチ。当たり前のプレーを当たり前にこなしている姿は、とてもプロデビュー戦とは思えなかった。
スコアレスでゲームが進んでも、集中力は途切れない。74分にクロスボールの処理を見誤り、ピンチを迎えたときも、そのあとの対処が冷静だった。至近距離からのシュートに対し、長い腕をぐんと伸ばして片手で防いだ。ただ本人が手応えを得ていたのは、ビッグセーブではない。
「ミスをしたあとのプレーを大事にできました。『最後までプレーをやり切ること』といつも練習から言われているので」
そして、公式戦の舞台でしっかりコーチングできたのも自信になった。キャンプから改善点として取り組んできたことを実践し、クリーンシートでプロキャリアのスタートを切った。スコアレスドローで終了した試合後、オンライン会見に顔を見せたルーキーは、レッズで一歩を踏み出したことに感慨を覚えていた。レッズジュニアの1期生。小学5年生の頃からアカデミーで育ってきた。トップチームデビューの喜びを噛み締めつつも、"浦和の責任"を背負う覚悟を口にした。
「レッズの重みを感じている。日本で一番じゃないといけないクラブ」
ベンチ入りだけでは満足することはできない。昨季はトップチームに帯同しながらも出場機会をつかめず、悔しくてたまらなかった。まだ高校3年生だったものの、スターティングメンバーに名を連ねるために本気で取り組んでいたのだ。ゴールマウスに立つことに徹底してこだわる姿勢は今も変わらない。
「試合に出場できたことは次につながります。それでも、1試合出るだけでは意味がありません。出続けることが大事だと思います。僕はここからです」
今季のルヴァンカップは、飛躍の舞台にするつもりだ。次はその大きな手で、プロ初白星をつかみ取る。