No316 04.02発行
興梠、西の復活に見えた光明
サッカージャーナリスト 国吉好弘
J1第6節の川崎フロンターレ戦で0−5の完敗を喫し、リーグは1勝2分3敗。3月27日に行われたYBCルヴァンカップの柏レイソル戦も、久しぶりに8000人を超える観客を迎えた埼玉スタジアムで0−1と敗れた。結果を見れば決してポジティブではないが、リカルド ロドリゲス監督が目指す「攻撃的に相手を押し込む、見て楽しいサッカー」は「三歩進んで二歩下がる」とでもいうような浮き沈みはありながらも、少しずつ前進しているように映る。
川崎F戦でも前半は、昨季、圧倒的な力を見せつけたチャンピオンに一歩も引かない戦いができた。それも、川崎Fが秀でるパスサッカーに対抗してレッズも果敢にボールをつないだ。試合によって、また時間帯によってできないこともあるが、目指すベースの部分が確実に身についてきている。キーマンとなる小泉佳穂はまだミスも散見するが「腰の引けたプレーはしたくない」と果敢に取り組み、チームとともに成長している。
ロドリゲス監督も「内容に結果が伴ってこないということはありますが、変わらず誇りを持って、前に進んでいくことが大事」とポジティブに捉えている。
もちろん、チャンスを作っても決めきれない、つまらないミスで簡単に失点してしまう、という肝心の両ゴール前でのプレーで、精度やアイデア、集中力を欠いているために結果につながらないことが大きな問題だ。
その点で光明となるのが、柏レイソル戦で今季初めてスタメンから登場した西大伍と興梠慎三の復帰だ。ともに負傷で出遅れたが、二人がプレーすることで、決定力、守備の緩さという問題点を修正できそうだ。興梠の決定力は改めて言うまでもなく、西は的確な判断で落ち着いたプレーができ、守備では厳しさを見せて存在感を示した。
また明本考浩が左サイドバック(SB)にコンバートされたことにも注目したい。ロドリゲス監督は徳島ヴォルティスでもFWだった岸本武流をSBに移して効果を上げており、それまでにも似たケースがあった。レッズでも今季獲得した明本や田中達也に、これまでとは違う役割を与えることも視野に入れていたのではないか。明本はSBでも球際の強さやピンチに体を張る勇敢さを見せ、持ち味の運動量も攻守に生かしていた。ここまで両サイドからの失点が目立っており、西と明本はその解決策になりうる。
鹿島アントラーズ戦でも目指す方向性を見失わず、チームとして成長しているところを見せたい。
No317 04.10発行
“リカの息子たち”の対戦
サッカージャーナリスト 大住良之
レッズはどんな「違い」を見せられるのだろうか—。日本における「リカの長男」(徳島)を迎えての「息子たちの対戦」である。
誰もが知っているように、「リカ」ことリカルド ロドリゲス監督は徳島ヴォルティスで17年から20年まで4シーズン指揮をとり、昨年はついに明治安田生命J2リーグで優勝、J1への昇格を勝ち取った。タイトルをもたらしたのは、その戦術の徹底だった。前線から激しくプレッシャーをかけ、奪ったボールを時間をかけずにコンビネーションを使って攻め上がり、人数をかけて相手ゴールに襲いかかる—。まさにいま、リカがレッズで推し進めようとしているサッカーの熟成の結果だった。
そのスタイルに、徳島は今季さらに磨きをかけている。日本の入国制限によってダニエル ポヤトス新監督が来日できなかったハンディを甲本偉嗣ヘッドコーチが中心になってはね返し、第7節には清水エスパルスを相手にアウェーで3−0で快勝。全員が動きを止めずに攻め切るサッカーは、さすがに「リカの長男」と思わせた。
戦術の熟成度ではかなわない。ではレッズは何で「違い」を見せるのか。それはもちろん、何よりもまず、相手より強い気持ちで戦い、相手より1メートルでも多く走ることだ。第7節までのデータによると、レッズの1試合平均走行距離は116.180キロでJ1の20チーム中14位。徳島は120.388キロで6位。明日の試合では、それをひっくり返す意気込みがなければ勝利を手にすることはできない。
そしてレッズが「違い」を見せる大きな要因になるのは、サポーターだ。この試合も、先週の鹿島アントラーズ戦と同様、埼玉県における緊急事態宣言解除後の段階的緩和措置による試合開催で、ビジターの応援席はなく、入場者1万人を上限とする試合となる。鹿島戦では、9975人(入場券を買った人の99.75%が来場)というサポーターの存在が大きくチームを後押しした。声も出せず、旗も振れなくても、そこにいて、力強い太鼓と拍手で気持ちを伝えることが、どれだけチームの力づけになるか、計り知れない。
興味深い「リカの息子たち」の対戦。リカとの時間がまだ短い「次男」としては、長男をリスペクトしつつ、「急成長しつつある者」の力、ひとつの試合のなかでも時間を追うごとに成長する力を見せつけなければならない。
No318 04.25発行
ピッチ上のマエストロ 小泉佳穂
スポーツライター 飯尾篤史
ピッチ上でひときわ目立つのは、派手な金髪だけが理由ではないだろう。
ボールコントロールが正確で、左右両足を駆使して展開する。あらゆる局面に顔を出し、ワンタッチでボールを動かして味方と味方をつなぐ様子は、まさにチームの“ハブ”だ。
「ひとまず顔を覚えてもらうまでは目立つ感じでいこうと思っています」
今季、J2のFC琉球から加入した小泉佳穂は新加入選手記者会見でそう語ったが、今や髪の色よりプレーそのもので異彩を放っている。
今季初の実戦となった沖縄トレーニングキャンプでの沖縄SV戦でチーム初ゴールを決めたのが、小泉だった。右サイドハーフからゴール前に入り込み、汰木康也のパスを受けて決めたもの。しかし、水戸ホーリーホック戦で負傷し、その後のトレーニングマッチを欠場した。だから、驚かずにはいられなかった。FC東京との開幕戦でスタメンに抜擢されただけでなく、すでにこの時点でチームの中心選手になっていたことに。
FC東京Uー15むさしの出身だが、Uー18への昇格を逃して前橋育英高校に進学。高校卒業時にもプロになれずに青山学院大学に進み、卒業後にJ3からJ2に昇格したばかりのFC琉球に加入。2年間プレーしたのちに、ついにJ1に辿り着いた雑草魂の持ち主。
そんな小泉が負けず嫌いの虫をのぞかせたのは、第6節の川崎フロンターレ戦後のことだった。王者との一戦は40分までレッズが主導権を握っていたが、42分に先制点を許すと、後半開始直後に畳みかけられて連続失点。終わってみれば0−5の完敗だった。その試合のあと、小泉は「トップ下をやっている僕と、相手の脇坂(泰斗)選手や田中碧選手との差が、そのままスコアに出たと思っています」と悔しさをにじませた。
しかし、「チームとしても、個人としても差は感じましたが、努力次第で埋められる差だと思います」ともきっぱり言った。FC琉球時代も1年目はプロの世界に慣れるのに苦しみ、12試合の出場にとどまったが、2年目にはチームの中心選手となった。おそらく川崎F戦後で感じた悔しさも、大きな飛躍への糧にするに違いない。ボールにたくさん触ってリズムを生み出し、長短のパスで攻撃を導く姿は、まるでマエストロ——。そのプレーをじっくりと堪能したい。