No319 05.08発行
山中亮輔が西大伍から受けている刺激とは
サッカーライター 原田大輔
「シーズンが終わった時、どのくらいアシストで数字を残せているかは毎年、意識しています。そこが個人的なバロメーターにもなっているんです。このサッカーを突き詰めていくならば、その数字は伸びていかなければいけないですし、自信もあるので、キャリアハイを目指したい」
そう意気込むのは、左サイドバックを担う山中亮輔だ。リカルド ロドリゲス監督のサッカーにおいて、サイドからのクロスは攻撃パターンの一つ。それだけに山中の左足は生命線でもある。毎年、数字にはこだわっているというが、特に意識しているのは右サイドバックを担う西大伍の影響も大きいようだ。
「もともと、好きな選手を聞かれたら、大伍くんの名前を挙げていたくらいだったんです」
チームメイトになったことで感じる西の凄みとはどこなのか。
「プレーはもちろんなんですけど、試合中も喜怒哀楽を出さずに、淡々とプレーするところです。だから相手に心理状態を読まれることがない。そこは自分も目指すところです」
たとえ焦っていても、それを相手に読ませない。隙を見せない姿勢はサイドバックだけでなく、すべての選手に必要な素養だろう。
「あとは、ボールコントロールが正確なことですよね。一緒にプレーしていて、そこが一番感じるところかもしれません。自分が意図するところにつねにボールを置いている。だから、相手も飛び込めず、次のプレーを円滑に進めることができているんだと思います」
今季、浦和レッズに加入した西は、初先発した鹿島アントラーズ戦(J1リーグ第7節)でいきなりアシストを記録。そこに山中は大いなる刺激を受けていた。
「以前は尊敬しかなかったんですけど、大伍くんがいきなり結果を残した姿を見て、負けたくないと思うようになりました。だから、今は尊敬から負けたくない相手に変わったとでも言えばいいですかね」
経験のある西から学び、自分の特長を磨くことで、山中は高みを登っていく。
「自分自身もクロスには自信を持っていますし、そこを磨けば磨くほど、相手にとっても脅威になると思うので、さらに追求していきたい。相手ゴール前では個人のアイデアがかなりの比重を占めてくる。そこで違いを見せることが自分の役目。クロスの質、要するに自分のプレーの質だけで決まるところもあるので、数字と結果を含めてこだわっていきたい」
相乗効果ーー。両サイドが刺激し合い、切磋琢磨していくことで、チームも高みへと登っていく。
No320 05.21発行
チャレンジがMF小泉佳穂を成長させる
スポーツライター 杉園昌之
梅雨入り前の陽光に照らされ、背番号18の輝きが増してきた。1カ月半に1度の頻度で手入れをするという鮮やかな金髪とともに、小泉佳穂のプレーは目を引く。猛烈なプレスが来ても、なんのその。相手をひらりとかわし、敵の急所を突く難しいパスをさらりと通す。腰の引けたプレーをしないことを心がけながらも、頭の中ではリスクとリターンは天秤にかけているという。
「自信があるわけではなく、意識の問題だと思います」
新生レッズの潮目が変わった7節の鹿島アントラーズ戦では大胆なサイドチェンジで先制点のきっかけをつくり、11節の大分トリニータ戦では逆転勝利を呼び込む2アシスト。ホーム4連勝を飾ったベガルタ仙台戦でも巧みなヒールパスのワンツーで局面を崩し、ユンカーのリーグ初得点につながる仕事をこなした。試合を重ねるごとにゴールに絡む回数が増えており、表情も今まで以上に明るい。勝利から見放されていた3月頃とは、顔つきが違って見える。2カ月前に画面越しに話を聞いたときは考え込むような仕草を見せ、言葉を絞り出していた。
「うーん、攻撃のリズムはつくれているかもしれませんが、決定的な仕事はまだまだできていません。やっぱり、アシストや得点を重ねて、チームを勝たせるようにならないと、手応えを感じることができないと思います」
今季、J2の琉球FCから完全移籍で加入し、初めてJ1の舞台に立つ大卒3年目の24歳。リカルド ロドリゲス監督に重用されて、リーグ戦全14試合で先発出場している。レギュラーを確保していると言ってもいいが、安住するつもりはない。
「現状を維持しようと思えば、落ちていきます。いまできていることを一度壊して、高めていく作業が必要です。一流になるためには、それを積み重ねていかないといけません」
たとえ、結果が出ているときでも、新しいことにチャレンジしていく。プロ棋士の羽生善治さんの著書を何冊も読み込んで、共感を覚えたことである。将棋は趣味の一つであるが、同じ勝負の世界で生きる先達の考えは参考になることも多い。人生すべてに学びあり−−。飽くなき向上心を持つ男の伸びしろは、計り知れない。移籍1年目から自らに言い聞かせている。「チームを勝たせるために、常に完璧なプレーをしていきたい」。ホーム5連勝に向け、5月22日のヴィッセル神戸戦でもパーフェクトを求めて、走り続ける。
No321 05.29発行
リカは生まれついてのリーダー
大住良之 サッカージャーナリスト
「リカと呼んでほしい」
そのひと言に、レッズの新監督の、オープンで飾らない人柄を見た思いがした。今年1月17日の就任記者会見のことである。
「チーム全員がしっかり団結して戦うこと」。それがどんな戦術にも優先する、サッカーで最も大事なポイントであるとも語った。
J2徳島ヴォルティスでの成果を見て、リカルド ロドリゲス監督は「戦術家」であるというイメージが強かった。浦和レッズでの4カ月間を見ると、たしかに、確固たる戦術的なビジョンをもち、トレーニングを通じてそれをチームに落とし込むアイデアと創造性の持ち主であることは間違いない。なかでも、選手が思い切った動きをしながら必要なスペースを誰かが埋めているポジショニングの向上は、シーズン開幕当初と比較すると驚くべき変化だ。
だがそれ以上に、リカには、その言葉どおり、チームの団結を大切にし、互いに信頼し合い、リスペクトし合って成長していこうという「リーダー」としての人間的な力を感じる。
そうした力を生むのは、第一に公平さだ。チームの主軸である西川周作が大きなミスを犯すとその次節には彼をベンチに置き、18歳の鈴木彩艶を先発させた。鈴木はJリーグデビューから3試合連続完封という四半世紀ぶりの記録をつくった。だが今後鈴木のパフォーマンスが落ちれば、次の試合では西川が出場機会をつかみ、鈴木はまたしばらくベンチで出番を待つことになるだろう。リカがチーム全員を公平に見てくれているという信頼感が、現在のチーム状態を引き出す大きな力になっている。
公平さとともに見のがすことができないのが、リカの明るさだ。話は常に前向きで、愚痴っぽい表情や言葉などかけらもない。選手たちを「この人についていけば間違いはない」という思いにさせるのは、どんな状況でも前進していこうというポジティブな姿勢に違いない。
「アリガトー!」「ドウイタシマシテ!」
彼の語尾上がりの日本語のあいさつを聞くと、チームの一員ならぬ私でも、これから何か良いことが起こりそうが気がしてくるから不思議だ。もちろんそれは言葉だけのことではない。チームを成長させたい、この浦和で何かを成し遂げたいという強い思いがストレートに伝わってくるリカという人物は、生まれついてのリーダーに違いない。