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REDS TOMORROW
「Red Wind」

バックナンバー
掲載 #340~#344

「REDS TOMORROW」は浦和レッズパートナーの朝日新聞社と浦和レッズが協同発行しているタブロイド紙です。
浦和レッズホームゲームの前日に朝日新聞朝刊に折り込まれます。

REDSDENKI

No340 08.09発行

前半戦に蒔いた種が発芽し始めたレッズ。実りの秋へ!

飯尾篤史 スポーツライター

敵地で行われた名古屋グランパスとのYBCルヴァンカップ準々決勝第1戦は1-1の引き分けに終わった。
主力選手を送り出したレッズに対し、名古屋は明らかにメンバーを落としていたから、勝たなければならない試合だった。
実際、前半はレッズが試合の主導権をがっちりと握っていた。この前半に1点しか奪えなかったこと、後半になって相手がマテウス カストロや相馬勇紀、稲垣祥を投入してくると、試合の流れを譲ってしまったのは反省しなければならないが、大きな収穫もあった。
「特に前半のラスト20分は、近くにいる選手同士がお互いのポジションを見合って、相手をロックして、フリーになれていた。やりたいことはできていたと思います」そう語ったのは小泉佳穂だ。左サイドでは小泉、大久保智明、大畑歩夢が、右サイドでは伊藤敦樹、ダヴィド モーベルグ、宮本優太が、トライアングルを築きながらポジションを入れ替えて、相手のマークを振り切った。
3人がローテーションすることで相手を混乱させてマークにズレを生じさせるのは、リカルド ロドリゲス監督が求めてきたもの。「これまでは試合で出すのが難しかったり、マンツーマン気味の相手に苦戦したりすることが多かった」と小泉は振り返ったが、名古屋戦では手応えが掴めたようだ。アンカーを務める岩尾憲の的確な長短のパスワークを含め、ビルドアップの精度は確実に磨かれている。
ゴールシーンはモーベルグのクロスに松尾佑介が合わせた形。J1リーグ第23節の川崎フロンターレ戦に続いて右サイドから攻略してゴールを奪った。
「逆サイドからも人が入ってきている。ゴール前のポジショニングは共有できているので、焦ってニアに入らなくてもいいという余裕にもつながっている」とは松尾の言葉。逆サイドの大久保や関根貴大、インサイドハーフの伊藤や小泉、江坂任らがゴール前に飛び込むことで、得点につながる機会が増えてきた。
言うなれば、シーズンの前半戦で蒔(ま)いた種がようやく発芽してきた状態なのが、今のレッズだ。しばらく産みの苦しみを味わった甲斐があったというものだろう。10日に行われる名古屋との第2戦でも成長の跡を示したうえで、準決勝へのチケットを掴み取りたい。そして実りの秋に向けて、ここからさらに成長を遂げていく。

No341 08.18発行

埼スタで今季5得点!伊藤敦樹も燃えている

杉園昌之 スポーツライター

埼玉スタジアムでのAFCチャンピオンズリーグには特別な思い入れがある。下部組織出身の伊藤敦樹にとっては、幼い頃から憧れてきた舞台。2007年大会はレッズのユニホームを着て、熱気あふれる会場で必死になって応援した。準決勝のPK戦で歓喜し、決勝では幼心に感動を覚えた記憶がうっすら残っているという。
2017年大会の決勝は流通経済大の選手寮でテレビで観戦し、大声を挙げて2度目の優勝を喜んだのは良い思い出。胸に深く刻まれているのは、茨城から駆けつけた2019年大会の決勝だ。物心つく前から足を運んでいた埼スタはいつも以上に熱狂に包まれ、異様な雰囲気が漂っていた。ただ、そこで見た試合後の光景はショッキングなものだった。アジアの盟主であると信じていたレッズがサウジアラビアのアル・ヒラルに完膚なきまで打ちのめされたのだ。大学3年生の伊藤は悔しさを噛み締めながら、アジアの戦いに思いをはせた。
「早くレッズに入り、ACLのピッチに立ちたい」
あれから3年。昨季は天皇杯を制覇してACL出場権の獲得に貢献し、いま念願の大会を戦っている。8月19日には、ノックアウトステージの初戦を迎える。セントラル開催のメイン会場は埼玉スタジアム。チームにとっても、願ってもないシチュエーションである。今季、本拠地での公式戦は、わずか1敗のみ。そして、伊藤以上に“ホームの力”を自らの結果につなげている選手はいない。J1リーグ、カップ戦を含め、埼スタではチーム最多の5ゴールをマーク。本人も目に見えないパワーを感じている。
「埼スタだと負ける気がしないんです。最近はシュートを打てば入る感覚があります。根拠はないのですが……」
8月10日、埼スタで声出し応援の実証実験が行われたYBCルヴァンカップの名古屋戦でも2ゴール。スタジアムに「アツキ」コールがこだました3日後、アウェーのジュビロ磐田戦でも同じような形から左足ボレーでゴールネットを揺らした。ペナルティーエリアに入っていく動きは目を見張るばかりである。ゴールの味を覚えたボランチは、自信に満ちあふれている。
「埼スタでのACLは全試合で点を取って、すべて勝ちますよ」
声出し応援が許可されているACL。大きなチャントが響き渡れば、さらに力を発揮するはず。伊藤が見据えるのは、ずっと夢見てきた大声援で揺れる埼玉スタのファイナルだ。

No343 10.07発行

新戦力のリンセンの得点感覚に期待

国吉好弘 サッカージャーナリスト

YBCルヴァンカップの準決勝で敗れ、来年2月に行われるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝を除けば、レッズの今季の残り試合はリーグ戦の4試合のみとなった。その明治安田生命J1リーグでは現時点で暫定9位と、降格の心配はないが優勝の可能性もない。だが、この4試合をいかに戦うのかはACLで歴代最多となる3回目の優勝を果たすためにも、来季に向けても大切になる。
もちろん、どんな状況であろうと、迎える1試合1試合を全力で戦い勝利を目指すことは言うまでもないが、最近2試合はルヴァンカップの準決勝第2戦でセレッソ大阪に0-4、J1第31節ではサンフレッチェ広島に1-4と大差で連敗しているだけになおさらだ。両試合とも相手の前からの厳しいプレスをかわし切れずに劣勢に追い込まれた。
そこは最大の改善点であり、リカルド ロドリゲス監督の下で培ってきたサッカーの生命線でもある。ACLでの戦いやその前後で好調だった時期には少なかった失点がここ2試合で急増したのは、相手が研究してきたこともあるが、レッズのボールを動かす早さ、受けるポジショニングにやや緩慢なところが見られたことが大きい。パススピードと精度、ポジションの修正の予測を改めて見直し、さらに高めなければならない。それができなければリカルド監督の目指すサッカーは成立しないからだ。
一方でチャンスが作れていないわけではないのに得点につながっていないことも問題だ。この点に関しては広島戦でJリーグ初出場となったブライアン リンセンに期待したい。この試合では28分間のプレーだったが、その中でも鋭い得点感覚を示した。キャスパー ユンカーのパスを受けて難しい体勢で技巧的なシュートを見せ、GK大迫敬介にはじかれると即時に反応してヘディングで狙った。これも大迫の見事なセーブに阻まれたが、このCKから大久保智明のクロスをヘッドで流して柴戸海のゴールをアシストするなど、得点への可能性を感じさせるプレーが光った。来日して初めてプレーしたパリ・サンジェルマン戦でも、すぐに負傷してしまった短い時間の中でシュートチャンスをつかみ、オランダリーグで二ケタの得点を挙げてきた実力を垣間見せた。
これまでユンカーやダヴィド モーベルグは能力の高さを実証しており、リンセンも時間は少ないがパリ・サンジェルマン戦や広島戦でゴールに向かう強い姿勢、シュート技術と得点センスも高いレベルであることを示した。彼らをどうチームに組み込むか、どんな組み合わせがその力を引き出すことができるのか、残る4試合は積極的にトライするチャンスでもある。それがACLのタイトル獲得、来季へのステップアップにつながるはずだ。

No344 11.04発行

リカルド監督がレッズに残したもの

大住良之 サッカージャーナリスト

苦しんだシーズン前半からAFCアジアチャンピオンズリーグ(ACL)で決勝進出を果たした夏場を経て、「これからは三段跳びのジャンプだ」という期待を、9月のこのコラムで書いた。だがさまざまな不運が重なってそれは実現されず、最終節を前にリカルド ロドリゲス監督の今季限りでの退任が決まった。勝負の世界の常とはいえ、非常に優れた監督だっただけに残念だ。
昨年からの2年間、リカルド監督の下でレッズは大きく変貌し、成長した。10年近く続いたチームが完全に解体され、新加入の選手たちが主役となった。なかでも大学卒やJ2のクラブから移籍してきた無名の選手たちが早ばやと「リカルドのサッカー」に順応し、見ていてワクワクするサッカーを実現したことには驚いた。リカルド監督の大きな功績のひとつが、チームの若返りに成功したことだ。
リカルド監督が就任するまで、レッズというチームにはどこか「重さ」があった。サポーターの期待を背負い、勝たなければならない、タイトルを取らなければならないという「重荷」を、誰もが背負ってピッチに立っているように見えた。だが常に前向きで明るいリカルド監督が先頭に立ったことで、チームから弾むような明るさを感じられるようになった。
その明るさが、「リカルドのサッカー」そのものだった。果敢にボールを奪いに行く。ボールを奪ったらリスクを恐れずにパスをつなぎ、相手ゴールに迫っていく。流れるようなコンビネーションでチャンスをつくり、さまざまな選手が得点にからむ。そのベースはリカルド監督が鍛えた「ポジショニング」の精度であり、常に正しい位置取りをすることで進めるサッカーに、選手たちは、大きな手応えとともに、プレーの喜びを感じていたに違いない。
サッカーの監督はときに策士であり、周囲を欺かなければならない仕事だが、リカルド監督は常に誠実で、そして言葉にうそがなかった。そうした人間的な側面が、レッズの成長に果たした役割も小さくない。
リカルド監督は浦和を去り、レッズは新監督の下で新シーズンに向かう。それが良い方向に進むことを心から願うが、同時に、リカルド監督のこれからのサッカー人生がより成功に満ちたものになることを祈らずにいられない。

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