連載「素顔の選手《REDSげんき》」
Episode4 ぼくの宝物
髙橋利樹(たかはし としき)18 FW
僕の大事なものは熊本です。
自分をプロ選手にしてもらったのは熊本ですし、人柄も含め熊本は自分にとって第二の故郷というか、かけがえのないものです。
ロアッソ熊本からオファーをもらったのは国士館大学4年の夏ぐらいでした。大学の理事長でもあったサッカー部の監督から連絡があって、「熊本からオファーがあった。明日強化部の人がこっちへ来る」と言われました。翌日、熊本の強化部の人と面談し、監督から「お前、熊本に決まりだ。この書類を親に持ってけ」と言われました。「え、決まりなの?」と思いましたが、強化部の人の前で「いや、ちょっと考えさせてください」とは言えませんでした。
そのまま家に帰って親に「なんか、熊本に決まったっぽいわ」みたいな話をしました(笑)。
当時は「熊本かぁ…」という感じはありました。九州ってめっちゃ遠いし、何もないイメージだったので。熊本は当時J3でしたし、もう少し別のクラブも見て決めたかったな、という気持ちは正直ありました。
でも、強化部の人に言われたのは、自分のがむしゃらなプレーを見て、今の熊本にはそういう部分が足りないからぜひ来てほしいということでした。自分のことをちゃんと見て評価してくれたんだな、と思いました。来てくれたらうれしい、みたいなことを言われて、次の日に「行きます」と電話で話をしたら、逆にすごくびっくりしてました。声をかけてもらったのが6月だったんですが、普通はJ1やJ2からオファーがあるかもしれないのでしばらく待つみたいですね。同期で熊本に入った選手たちに聞いたら、みんな返事をしたのが8月とか9月だったらしいです。
最初に声を掛けてくれたのが熊本だから、という気持ちもありました。監督もそういうことを大事にする考えの方だったので最初に「決まりだ」とおっしゃったんだと思います。
初めて熊本に行ったのは、J3リーグの最終戦を見に行ったときですね。だから練習参加とか1回もしなかったんです。クラブハウスに行って挨拶し、住むマンションを探して、帰ってきました。
年が明けて熊本に行って、手続きとか家具を入れたりして3日後からキャンプでした。キャンプから帰って本格的に熊本暮らしが始まりました。それまで大学は寮で生活をしていましたが、基本的にさいたま市から出たことがなく、初めての一人暮らしでした。
最初は友達もいないし、それまでも洗濯は自分でやってたんですけど食事は寮でしたから、自炊しなくてはいけなかったですし、どうしようかな、みたいな感じでした。
そういうときにロアッソのつながりで、飲食店をやってる方に夕食を提供してもらいました。最初は2週間に1回とかでしたけど、最後の3年目は週に2~3回ぐらい行かせてもらっていました。馬刺し屋さんなんですけど、コース料理しかなく予約しないと入れないようなお店なんですが、僕ら選手にはメニューにないものを作って提供してくれました。
ほかには、選手がみんなお世話になっているガソリンスタンドがあるんですけど、ガソリンを入れたついでに、そこの社長さんからお昼を一緒に食べようと言われて食べに行ったり、その後、近くの八百屋に一緒に行ってフルーツや野菜を一人で食べきれないくらい持たせてもらったりしました。ガソリンも安く入れさせてくれたり、洗車も無料でやらせてもらったりしていました。
本当にみなさんに親切にしてもらった熊本での3年間でした。
熊本の試合って、ふだんのホームゲームは2,000~3,000人、九州のチームが相手でも4,000~5,000人ぐらいの入場者でした。
ところが昨年のJ2リーグの最終戦、僕の熊本での最後の試合でもあったんですが、横浜FC戦に21,000人も入ったんです。なぜかというと、引退を表明した中村俊輔さんのラストゲームだったんですよ。元日本代表でファンタジスタと言われた中村俊輔さんの最後の試合となったら、そんなに人が来る。そういうことには敏感なんだな、と思いました。
熊本の「えがお健康スタジアム」(KKWING)って、熊本空港からは割と近いんですが、駅からは近くないし、駐車場も本当に少ないんですけど、アクセスを改善していけば、それくらいの人は来るかもしれないって、ことですよね。そのあとJ1昇格プレーオフがあって、それにも1万人以上が入りましたから。
もちろん今でもロアッソの成績は気にしています。試合も見られるときは見るようにしています。
熊本の街並みも好きですし、車で1時間弱走れば阿蘇があって、そこまでのミルクロードっていう県道があるんですけど、その道も本当に好きで、牛や馬の放牧とかもされていて、日本じゃない感じなんです。オフにはよく阿蘇に行って温泉に入ってきました。
熊本駅の周りはあまりにぎやかではなくて、駅からちょっと離れたところに繁華街があるんです。熊本城の近くです。そういう歴史を感じる場所なんですが、熊本城は7年前の震災で大きな被害を受けて、復旧も進んでいるんですが、崩れた石を元のところに丁寧に埋め込んでいるらしくて、本当に復元するには30~40年かかるという話も聞きましたね。震災の写真も見ましたが、本当に大きな地震だったんだな、とわかりました。
今年、熊本でお世話になった方が、浦和まで会いに来てくれました。ロアッソからガンバに移籍した選手がいて、5月14日、浦和レッズvsガンバ大阪の試合が埼スタであったので、その日に来てくれたんです。その選手はベンチ入りして途中出場していましたけど、僕は入っていなかったです。
本当に一方的にお世話になった人たちばかりで、恩返しと言えば僕がレッズで活躍することかなと思っています。そしてロアッソがJ1に上がってきたら、絶対にアウェイ戦には行きたいです。きっと喜んでいただけると思います。試合ではブーイングされるでしょうけど。
3年間しかいませんでしたが、僕にとって「宝物は?」と言われて、思い浮かぶような場所、それが熊本です。
髙橋 利樹/1998年1月20日 埼玉県さいたま市生まれ
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