64 2023.7.20

REDS TOMORROW
「Red Wind」

バックナンバー
掲載 #349~#352

「REDS TOMORROW」は浦和レッズパートナーの朝日新聞社と浦和レッズが協同発行しているタブロイド紙です。
浦和レッズホームゲームの前日に朝日新聞朝刊に折り込まれます。

REDSDENKI

No349 05.05 発行

多くの思いを背負い、いざ頂点へ。興梠慎三の覚悟

飯尾篤史 スポーツライター

今季に懸ける思いや覚悟が伝わってきた。何せストレスなく過ごすことをモットーとしてきた男が、オフシーズンに初めて自主練習を行い、体を作ってきたからだ。
「年齢的にいいパフォーマンスを披露できるのは今年までだと思う」
37歳となる2023年シーズンの開幕前、興梠慎三はそう言った。実際、自主トレの効果はてき面だった。3節に初スタメンを飾ると、以降のリーグ戦で全試合に先発出場して2ゴールをマークする。
北海道コンサドーレ札幌でプレーした昨季は、先発しても60分台でベンチに下がることが多かったが、今季は札幌戦で89分まで出場。川崎フロンターレ戦でも80分までプレーし、スタミナや体力面で充実している印象だ。
変化はそれだけにとどまらない。これまでは背中で語るタイプの選手だったが、今季はチーム全体に積極的に声を掛ける姿が目立つのだ。札幌戦前の紅白戦では味方だけでなく、札幌役を務める相手チームに対してもアドバイスを送っていた。
「そんなタイプではなかったけれど、誰かがやらないといけないから」
興梠は自らの変化をそう説明する。阿部勇樹が引退し、槙野智章や宇賀神友弥もチームを去った。かつて阿部や平川忠亮がそうだったように、縁の下の力持ちとなりつつ、ピッチ内でもチームを牽引しようとしている。
そんな興梠にとって大きな意味を持つのが、AFCチャンピオンズリーグ2022決勝だ。
同じくアルヒラルと対戦した19年の決勝。ホームで0-2の完敗を喫すると、あまりの悔しさに号泣した。チームスタッフも初めて見る姿だった。
あの悔しさを晴らすチャンスが目前に迫っている。
昨季のACLは経験していないため、「去年までいたキャスパー(ユンカー)だったり江坂(任)だったり、予選を戦った選手の分まで背負って。もっと言えば、(21年の)天皇杯決勝でマキ(槙野)がゴールを決めたからACLに出られた。いろいろな人の気持ちを背負って戦いたい」と自らを奮い立たせた。
もともとチャンスメーカーだった自身がストライカーとして覚醒したのは、「レッズのファン・サポーターが自分にゴールを求めてくれたから」と公言してはばからない。
彼らへの感謝を、リーグチャンピオンとアジア王者の称号を獲得して示したい――。
興梠のキャリアの集大成となる戦いが始まる。

No350 05.13 発行

30周年のJリーグ 浦和レッズへの期待

大住良之 サッカージャーナリスト

数年前まで、Jリーグ史最大の事件は1998年の横浜フリューゲルス消滅だった。クラブの枠を超えた日本全国のサポーターの反応で、以後、クラブの消滅はなくなった。クラブは企業のものではなく、ホームタウンの人びとのもの。企業の論理でなくすことなどできないからだ。
しかし2020年とともに始まった新型コロナウイルスのパンデミックはこの事件を超えた。4カ月もの中断、練習さえ許されない状況、それに続く無観客試合、極端な入場者制限の試合、声出し応援の禁止…。「夏までには終わる」という希望的観測は早々と打ち砕かれ、「コロナ下」のJリーグは実に3シーズンにも及んだ。
この一大危機にJリーグは他の組織(スポーツ、非スポーツに限らず)に先駆けて真剣に取り組み、いかに感染拡大を防ぎつつスポーツ活動を継続するか、明々とたいまつを掲げながら先頭を走ってきた。1年遅れ、基本無観客でも、2021年に東京五輪を開催できたのは、Jリーグが積み重ねてきた「実証実験」のおかげだ。
その新型コロナウイルスが季節型インフルエンザと同様の「感染症5類」へと移行された同じタイミングでレッズが3回目のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)優勝を果たしたのは、けっして偶然ではないような気がする。
日本中で、そしてアジア、世界で、ACL決勝戦を見た人びとがレッズのサポーターの底知れぬパワーに驚いた。スタジアムいっぱいに人が集まる。全員が心を合わせて声を出す、そしてチームに無限のエネルギーと勇気を与える…。「コロナ下」では許されなかったことが、何の制約もなく、力いっぱい表現された日。それはJリーグにとっても、コロナ禍を超えた「新しい30年」の始まりを告げる光景だった。
「レッズサポーターのような存在になりたい」。日本中のクラブのサポーターたちが強くそう思ったに違いない。Jリーグがスタートして30年間、ときに憎まれながらも、レッズのサポーターたちは全クラブのサポーターたちの目標となってきた。30年間にJリーグ優勝は1回だけでも、その存在感は圧倒的だった。
Jリーグの「新しい30年」は、コロナ禍を超え、サポーターと不可分なJリーグの文化をさらに推し進めるものとなるだろう。そのなかで、浦和レッズというクラブにかけられる期待は大きく、責任は重い。

No351 05.30 発行

充実一途のGK西川周作は「シャーレ」獲得に思いを寄せる

杉園昌之 スポーツライター

5月20日、アビスパ福岡戦で浦和レッズでのJ1通算出場数は、歴代5位の槙野智章(引退)と並んだ。今年6月で37歳を迎える西川周作が、レッズで積み上げてきたJ1の通算試合数は「313」に到達。目尻のシワが深くなっても、パフォーマンスは衰えるどころか、向上するばかりだ。
中長距離のパス精度を向上させ、セービングの安定感も増している。今季はリーグ戦12試合を消化し、すでにクリーンシートは4試合。福岡戦でもビッグセーブを連発し、再三ピンチを防いでシャットアウトした。J1通算無失点試合数も「176」まで更新し、歴代1位の記録を伸ばし続けている。2022年からジョアン・ミレッGKコーチの指導を受け、新たな境地に達した感もある。厳しい練習のあとも守護神は、充実した笑みを浮かべている。
「いまがすごく楽しいんです。自分自身の成長を実感しているし、まだうまくなれると思っています」
パリ五輪を目指すU-22日本代表に名を連ねる鈴木彩艶の存在は大きい。ベンチに座る190cmの20歳がいるからこそ、余計に危機感を持ってゴールマウスに立っているのだ。2021年の夏前に6試合連続で先発を外された悔しさは、忘れたことがない。
「毎回、これが最後になるかもしれないという気持ちで試合に臨んでいます」
ここ数年、ことあるたびに口にするようになった言葉には、いつも実感がこもる。ピッチに一歩足を踏み入れた瞬間から神経を研ぎ澄まし、ゴールの番人となる。ピッチサイドから先輩の姿を追い続ける鈴木が一番よく知っている。
「好プレーを見せたあとも、集中力が落ちないんです。普通のゴールキーパーは少し余裕が出て、ふと気が緩むこともあるのですが、周作さんは終了の笛が鳴るまでスキを一切見せませんから」
1枠しかないポジションを争うライバルではあるが、尊敬の念を抱く。飽くなき向上心、前向きに練習に取り組む姿勢はGK陣のお手本になっている。
5月31日に対戦するサンフレッチェ広島から2014年に完全移籍で加入して、10年目。クラブハウスに飾られている大きなパネル写真を見て、ずっと想像を膨らませてきた。「いつかリーグ優勝して、浦和の街でパレードしたい」。今季こそ、そのときだろう。思いを募らせる守護神は、自らの手でシャーレを引き寄せるつもりだ。

No352 06.23 発行

上々の前半戦も、得点力不足が浮き彫りに

国吉好弘 サッカージャーナリスト

明治安田生命J1リーグは前半戦を終えて2週間の中断を迎えた。レッズはここまで消化が1試合少ないながら8勝5分3敗で勝ち点29を挙げて4位。YBCルヴァンカップでも1勝5分ながらグループ1位でプライムステージ進出を決めた。そして何よりAFCチャンピオンズリーグ(ACL)2022で優勝を果たしたことで、上々の前半戦を過ごしたと言える。
ACL決勝まではこのタイトル獲得を第一に戦い、それを達成してからは、マチェイ スコルジャ監督が本来目指す、よりアグレッシブなサッカーにシフトチェンジするはずだった。サガン鳥栖戦で敗れたのは目標達成直後の気持ちの難しさと体力的な疲労のためといえるが、その後はリーグ戦で3勝3分、ルヴァンカップでも1勝1分と負けはなく、結果を見れば悪くないのだが、6月に入ってリーグ戦で鹿島アントラーズ、横浜FC、そしてルヴァンカップの清水エスパルスと3試合連続で0-0の引き分け。得点力のなさが改めて浮き彫りとなった。
ここまで好結果を残しているのは、すでによく語られているようにディフェンスの安定が大きい。アレクサンダー ショルツとマリウス ホイブラーテンのセンターバックコンビは強さ、高さにうまさも備え、今季さらに成長した感のあるGK西川周作を加えたトリオによる中央の守りは、J1でもトップの堅固さを示している。さらに右の酒井宏樹、左の明本考浩の力強いプレー、ボランチの岩尾憲と伊藤敦樹のコンビの連系も高まり、前線の選手たちの献身的な貢献もあり守備に関してはJ1優勝を狙えるレベルに達している。
しかし、攻撃に関してはチャンスの数、決定力とも不足しており、後半戦に向けて改善しなければならない。センターバックの2人とは対照的に4人もいる外国人選手たちは持てる力を発揮しているとは言い難く、連携の良い日本人選手が使われることになるが、関根貴大や大久保智明も鋭いプレーを見せてはいるが、なかなか得点につなげられない。
新しい外国人選手を獲得するという噂も出ているが、かつてのポンテ、ワシントンといったクラスの選手でなければ同じことを繰り返す可能性が高い。それなら既存の選手たちがより力を発揮できる方策を練った方が効率は良い。スコルジャ監督も中断期間に攻撃面を改善すると話しており、再開初戦の川崎フロンターレ戦でどんな変化が見られるか、そこでJ1優勝への可能性が計れるはずだ。

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