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REDS TOMORROW
「Red Wind」

バックナンバー
掲載 #353~#356

「REDS TOMORROW」は浦和レッズパートナーの朝日新聞社と浦和レッズが協同発行しているタブロイド紙です。
浦和レッズホームゲームの前日に朝日新聞朝刊に折り込まれます。

REDSDENKI

No353 07.07発行

チームの勝利を第一に考えている17歳 MF早川隼平が輝く理由

矢内由美子 レッズ・トゥモロー編集長

今、日本で一番忙しい高校生かもしれない。浦和レッズの背番号35、MF早川隼平だ。2005年12月生まれの17歳は浦和レッズユース所属。まだ高校3年生ながら既に2種登録で2年目となっている今季はトップチームの多くの試合に絡み、勝点奪取にも直接貢献して強烈なインパクトを残している。
「日々充実しているなというのは感じます」。選ぶ言葉にフレッシュさがある。
公式戦デビューは4月5日のYBCルヴァンカップ、川崎フロンターレ戦。0―0で迎えた76分に右サイドハーフの位置で途中出場し、プロのピッチに初めて立った。見ていて驚いたのは、「ゴール」というミッションに向かって猪突猛進なほど勢いのあるプレーをしているのにもかかわらず、動きのひとつひとつに気負いや無駄がなく、すぐにプロのレベルに溶け込んでいたこと。この試合は0-0のまま終えたが、マチェイ スコルジャ監督に継続して使いたいと思わせるポテンシャルを見せたのは間違いないと感じさせられた。
その予感通り、4月19日には同じくルヴァンカップの湘南ベルマーレ戦でトップチーム初先発を果たしたのみならず、初ゴールまで記録した。続く4月23日には明治安田生命J1リーグ川崎Fの後半途中からピッチに立ち、リーグ戦デビューを飾った。さらにはサウジアラビアへ遠征してAFCチャンピオンズリーグ2022決勝アルヒラル戦第1戦に途中出場。ホームでの第2戦でもベンチ入りを果たしてアジア№1を掴み取る戦いを経験した。
この約3カ月間の台頭ぶりには目を見張るものがあるが、思い起こせば昨年も1月の沖縄キャンプに帯同し、2月の明治安田生命J1リーグ開幕戦と第2節はベンチ入りを果たしている。コロナ禍の影響という背景はあったが、もともと早川の評価は高かったのだ。
年代別日本代表にはU-16から常に入っており、この6月にはU-19日本代表としてフランスでの国際トーナメントに出場。初戦のU-20モロッコ代表戦に途中出場してチームの逆転勝利に貢献した時のコメントが振るっていた。
「自分の長所は、ボールをもらった後に(マークを)外して前に進むところとスルーパス。攻撃の選手なので、得点に絡むというところは本当に強い気持ちを持ってやっていきたい。ただ、自分の価値も上げたいとは思うけど、やっぱりチームが一番」
埼玉県出身手で、ジュニアユースから浦和でプレーしてきた早川。「レッズで育ち、大勢のファン・サポーターの皆さんに認められる選手になるのが目標」と意欲的な17歳から目が離せない。

No 354 07.28発行

安部裕葵が持つ途轍もないハングリー精神

飯尾篤史 スポーツライター

度重なる負傷に加え、オフ明けでもあるから、7月14日の加入会見の時点で「部分的に合流し始めた段階」だという。ゆえに、過度な期待は控えなければならないが、やっぱり期待してしまう――安部裕葵はそれだけの才能の持ち主だ。
2018年にJリーグベストヤングプレーヤー賞に輝き、19年には19歳にして鹿島アントラーズの10番を託された。その年夏にFCバルセロナに見染められ、順調にいけば、東京オリンピックで堂安律、久保建英と並んで日本の攻撃の核となるはずだった。
こうしたキャリアを見ればエリートに思えるかもしれないが、実は稀有なキャリアの持ち主だ。
東京の城北アスカ、帝京FCジュニアユース時代は「大した選手ではなかった」と無名の存在だったが、人生を変えるために親元を離れて瀬戸内高校の門を叩く。広島県に越境進学した理由のひとつが、高校3年時のインターハイの開催地が広島で、開催地は2校出場できるから、そこへの出場を狙ってのことだった。そして実際、インターハイでベスト8に進出し、鹿島からのオファーを掴み取ってみせる。
2列目が本職で、ドリブル突破や裏への飛び出しからゴールを陥れるアタッカー。今の浦和レッズが最も必要としているタイプの選手だ。
もっとも、安部の魅力はそうしたプレーヤーとしての資質だけではない。
鹿島時代、彼はこんなことを話していた。
「自分の前にはいつも人がいて、それをどんどん追い越してきた。だから今、自分の前に人がいても、なんとも思わない。マラソンにたとえるなら、周りは気にせず、自分のペースで走り続けてベストを尽くせば、自然と追い抜いていける」
「うまくいかないことはたくさんあった。でも、僕は小さい頃から、ダメでもいいや、っていう精神なので、挫折を味わったことがない。どれだけ相手にボコボコにされようが、もともとうまくいかなかったタイプなので、なんとも思わない」
途轍(とてつ)もないほどのハングリー精神――。
これこそが無名の少年をバルサからスカウトされるまでに押し上げる要因だった。だからレッズでも……。
不運に見舞われ続けたこの3年半の苦悩は想像を絶するものだったはずだが、安部は今、その苦境を乗り越えようとしている。持ち前のハングリー精神で、完全復活することを願わずにはいられない。

No355 08.05発行

かつて背中を追った中島の加入にも刺激を受ける大久保智明

杉園昌之 スポーツライター

今年と同じように猛暑日が続いた2019年の8月。中央大学の3年生だった大久保智明は、21年度の加入が内定したばかりのレッズの練習に参加していた。トレーニングでは、さっそく得意のドリブルを披露。プロの中で腕試しを終えた21歳の大学生は練習後、汗をぬぐいながらお手本とする選手の名前を挙げた。
「動画でネイマールのドリブル集は、よく見ます。日本代表の試合を見るときは、同じ東京ヴェルディユース出身の中島翔哉選手(当時ポルティモネンセ=ポルトガル)の動きを自然と目で追っています。利き足は違いますが、同じドリブラーとして参考にするところが多いので」
あれから4年。23年の7月、かつて背中を追っていた中島は海外からJリーグに戻り、チームメートになった。ポジションは同じ『2列目』。刺激を受けないわけがない。大卒3年目の今季は主力となり、リーグ戦全21試合に出場(先発19試合)。自慢のドリブルで好機をつくるだけではなく、守備でもチームに貢献している。右サイドバックの酒井宏樹が攻め上がったスペースをしっかりカバーしているのは、小柄な働き者である。試合終盤になっても、サイドを上下動する足は止まらない。
「体力的にきつくても、守備で戻るところは求められていますから」
マチェイ スコルジャ監督の信頼は厚い。リーグ戦9試合のフルタイム出場は、途中交代の多い2列目のなかでもチーム最多。体力の消耗が激しくなってきた7月のリーグ戦全3試合も終了の笛が鳴るまで、ピッチの上で走り続けた。時計の針を見ながら駆け引きもしている。
「70分が過ぎてくると、相手も疲れて一歩目が遅くなってきます。その時間帯での仕事をもっと増やしたいし、『違い』をつくりたいと思っています」
底知れないスタミナの源はシーズン前のキャンプにあるという。1日も離脱せずに、1シーズンを戦い抜く体をつくり上げた。
「多少、足に痛みなどがあっても、ぎりぎりのところで耐えて、やり切りました」
地道な努力の積み重ねが生きている。シーズン後半戦は、中島に加えて、スペインのバルセロナBから安部裕葵も加入し、2列目のポジション争いは一層し烈になるが、簡単に定位置を譲らないはず。あす6日の横浜F・マリノス戦では、レッズに必要不可欠なアタッカーであることを結果で証明するつもりだ。

No356 08.17発行

ACLスタート! シーズン終盤は
31人の総力で勝ち進むことが必要だ

大住良之 サッカージャーナリスト

3回目の優勝(5月)の記憶もまだ遠くはないのに、新シーズンのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)がスタートする。今季のレッズはプレーオフからのスタート。8月22日(火)に埼玉スタジアムで最初の試合に臨む。
相手は8月16日に行われたLee Man(香港)対Bali United FC(インドネシア)の勝者。ともにブラジル人を中心に複数の外国人選手が活躍しており、油断は絶対に禁物だ。
明治安田生命J1リーグも残り11節となり、非常に重要な局面に入っている。勝点3がどうしてもほしい試合が続くなか、このプレーオフも全力で臨まないと足元をすくわれることになる。
AFCで日本のクラブがプレーオフから出場するのは2015年以後のことだが、以来延べ9チームが1戦制のプレーオフを戦ってきた。すべてホーム開催である。結果は8勝1敗。2020年に鹿島がオーストラリアのメルボルン・ビクトリーに0-1で敗れた以外はすべて日本のクラブが勝ち上がったが、延長戦が3試合、うちPK戦になったのが2回あった。
このプレーオフを勝ち抜くと、「Jリーグの終盤戦を戦いながらのACL」というかつてない厳しい戦いが待ち構えている。ACLのリーグステージの抽選会は8月24日。9月に1試合、10月と11月にそれぞれ2試合、そして12月に1試合と、今年中にグループステージの全6試合を戦うことになる。
今季、レッズは天皇杯では敗退してしまったが、まだYBCルヴァンカップが残っている。その勝ち上がり次第では、あすのJリーグ名古屋戦を含め、12月までに25試合を戦うことになる。そして何よりも、そのなかに3試合の「ウィークデー海外遠征」が含まれることになる。リーグ序盤であれば日程変更を要望するところだが、終盤では非常に難しい。
スコルジャ監督の指導下、今季のレッズは失点が大きく減ったものの、得点力には大きな課題を残している。だが今後は、守備も攻撃も特定の選手に頼ることは許されない。現在在籍する全31選手の総力を結集した戦いが必要だ。
中島翔哉、安部裕葵、そして宮本優太の新加入3人には、とくに期待したい。そして、試合ごとに「日替わりヒーロー」が出てほしい。31人のうち半数がそのヒーローになれば、笑顔で年末を迎えることができるはずだ。

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