No.364 03.02発行
松尾佑介のブレない心「チームのために尽力するヤツが良い選手」
杉園昌之 スポーツライター
メディアに囲まれ、威勢のいいコメントを求められると、どこか素っ気ない。ときにあまのじゃくで記者泣かせなタイプかもしれないが、松尾佑介の芯はブレない。言葉ではなく、プレーで示す――。ベルギーでの1年間で学んできた点を尋ねられると、さらっと返していた。
「成長した姿は、ピッチで見せます」
強気なコメントに偽りはなかった。明治安田J1リーグ開幕のサンフレッチェ広島戦では持ち前のスピードを生かし、サイドから好機を演出。中央に入り、思い切りの良いミドルシュートを打つなど、ゴールへの積極性を垣間見せた。攻撃的なスタイルで相手を圧倒することを目指すペア マティアス ヘグモ新体制でカギを握るのはウイングだ。松尾も自身の役割は理解している。
「アタッキングサードでの質を求められています。自分のサイドではチャンスメークし、逆サイドにボールがあるときはフィニッシャーの仕事がメインになる。常にゴールネットを揺らすイメージは持っています」
レッズでプレーした2022シーズンは、公式戦で11ゴールをマーク。得点力の高さは言わずもがなだろう。松尾の信条はシンプル。
「点を取れる選手には価値がある」
自信は持っている。幼少期から「自分は特別なんだ」と思い続けてきたという。決しておごりがあるわけではない。メンタルを安定させるための一つの方法である。向上心を持って練習に取り組む姿勢は、ずっと変わらない。
「簡単にレベルは下がっていきますから。実際にそうなった選手も知っています。逆にうまくない選手でも努力を続けることで良い選手になった例も見てきました。継続することが大事」
たとえ欧州帰りであっても、気負うこともない。松尾にとってフットボールは普遍のもの。
「どこに行っても球は丸いし、ゴールは四角なので」
1試合終えれば、また次の1試合への準備が始まる。すべてのゲームに全力を尽くすことを誓う。
「やることを変えずに頑張りたい」
基本はポーカーフェース。表にはあまり出さないが、胸の奥底では闘志を燃やす。
「チームのために尽力できるヤツがいい選手。どんなときも戦うことを意識したい」
1年半前に話していた気持ちは、今も変わっていないはずだ。3月3日のホーム開幕戦では、ピッチで感情を爆発させる松尾のゴールシーンを見たい。
No 365 03.29発行
福岡戦は「リベンジ」以上の意味がある試合
大住良之 サッカージャーナリスト
開幕前、多くの人が「優勝候補筆頭」に挙げたレッズ。昨季J1リーグで最少失点だった守備の上に、積極果敢な補強によって得点力のあるアタッカーが数多くそろったのだから当然だった。だがフタを開けてみると4節を終わった時点で1勝2分1敗。12位と出遅れている。
攻撃戦力の充実とともに注目されたのが新任のペア マティアス ヘグモ監督。ノルウェー代表監督の経歴をもち、ノルウェーとスウェーデンで数多くのクラブを率いてきた経験豊かな指揮官に期待が集まった。だが就任以来掲げてきた「4-3-3システム」が機能せず、第4節の湘南ベルマーレ戦後半なかばには昨年まで使い慣れていた「4-2-3-1」に変更してそこから4-4の引き分けにもちこんだ。
システム自体に優劣があるわけではないのは、誰でも知っている。だが「前から相手に圧力をかけ、ボールを支配して勝利をつかむ」というヘグモ監督の「理想像」をレッズがまだ実現できていないのは間違いない。
ヘグモ監督はそうしたサッカーをするための最良の配置が「4-3-3」だと考え、その「キモ」となる中盤の底「アンカー」の位置に昨年まで指揮をとっていたスウェーデンのヘッケンからスウェーデン代表MFサミュエル グスタフソンを連れてきた。グスタフソンは期待以上の優れたプレーを見せているのだが、それが攻守に結びついていないのが現状だ。
だが勝負はこれから。開幕から1カ月、4節を消化した時点で日本代表日程による中断期間があったのは大きい。この間のトレーニングで、チームは「ヘグモ戦術」の理解が進んだだろうし、ヘグモ監督も個々の選手をより深く理解し、またJリーグのサッカーへの認識も深まったに違いない。
今季のJ1は2クラブ増えて20クラブとなり、全38節。私は、優勝争いは9月の第30節以降になると考えている。あすのアビスパ福岡戦で一段階進んだ「ヘグモ・サッカー」を見せ、8月までに上位争いに加わっていければ、逆転して優勝をつかむことは十分可能だ。福岡は昨年勝てなかったチーム。「リベンジ」として是が非でも勝ちたい相手だが、今回の対戦にはそれ以上の意味がある。
No366 04.06発行
チームを機能させる“潤滑油” MF岩尾憲の存在意義
飯尾篤史 スポーツライター
今季のホーム初勝利となった3月30日の明治安田J1リーグ第5節アビスパ福岡戦で値千金の同点ゴールを奪ったのは渡邊凌磨で、逆転となるPKを決めたのはチアゴ サンタナだった。
しかし、この試合のマン・オブ・ザ・マッチに岩尾憲を推すファン・サポーターは少なくないのではないか。
開幕5試合目にしてインサイドハーフとして今季初スタメンを果たすと、ビルドアップをサポートしたり、臨機応変にポジションを変えたりしながらゲームをコントロールし、試合の流れを引き寄せた。
チームをスムーズに機能させる“潤滑油”のような働きぶりに、アンカーを務めるサミュエル グスタフソンも「憲は本当に素晴らしい選手。憲とのプレーはやりやすい」と称賛を惜しまない。
昨季、公式戦50試合以上に出場した岩尾だが、今季は自身がプレーしてきたアンカーのポジションにペア マティアス ヘグモ監督のBKヘッケン時代の教え子であるグスタフソンが加入。シーズン前に「今季が自分にとって難しいシーズンになるであろうことは想像がついています」と話していたように、開幕から4試合続けてベンチスタートとなっていた。だが、途中出場で自らの存在価値を示し続け、先発出場のチャンスを掴み取る。
そこでしっかりと期待に応えてみせたのは、入念な準備の賜物だろう。
「サミュエルが試合に出ても勝てるし、序列が入れ替わったり、彼がサスペンションで出られなかったりして僕が試合に出ても勝てる――そうした状態が作れたら、浦和レッズはリーグ優勝に近づくと思います」
シーズン前にはこうも語っていたが、グスタフソンと岩尾のどちらか、ではなく、ふたりは共存可能だということも証明された。
本職ではないポジションでの起用に「人並みにストレスは抱えていますよ」とこぼすが、その一方で「(アンカーとは違って)リスクを顧みずにゴールに近づけるのが8番(インサイドハーフ)のメリット。そこに一定の新鮮さと楽しさもあります」と言うように、インサイドハーフでのプレーを楽しんでもいる。
アンカーかインサイドハーフか、本人の希望ポジションに関しては「チームが勝てばどっちでもいいです。僕は監督から求められるポジションでベストを尽くすだけですから」ときっぱり。そんな岩尾のプロ意識の高さが、浦和をさらなる高みへと導いていくに違いない。
No367 04.19発行
GK西川周作が意識している“ある数字”
杉園昌之 スポーツライター
落ち込んで下を向くこともなく、イライラを募らせることもない。今年6月で38歳を迎える西川周作は、いつも泰然自若としている。今季は8試合で、すでに11失点。褒められた数字ではないが、ベテランの守護神は現実を受け入れて前を向いている。
「失点から学ぶことは多いです。一つも無駄にはしていません。ここまでのキャリアでも、僕はずっとそうしてきましたから」
加入11年目の浦和ではJ1リーグで343試合に出場し、奪われたゴール数は405点。失点の数だけ成長の肥やしにしてきた。得点を許した原因を考えなかったことはない。今季もジョアン ミレッGKコーチを中心に大原の練習場で青空ミーティングを開き、GK陣で細かく分析している。それぞれが意見を出し合い、客観的な立場から指摘してもらう。失点しないGKは存在しない。たとえ、ゴールを許しても、心を乱さないことを何よりも大事にしている。
「GKはすぐに気持ちを切り替えないと、良いプレーはできません。失点にとらわれないようにしているんです。今季は守備でリスクを負っているので、(失点が多くなる)覚悟はしていました。ネガティブになることはないですね。常に頭の中をクリアにして、試合に臨んでいます」
7節のサガン鳥栖戦で無失点に抑えて快勝しながらも、翌節の柏レイソルでは0-1の敗戦。勝ち負けを繰り返すなか、経験豊富なゴールの番人は、自らの果たすべき役割にしっかり目を向けていた。
「自分のできたこと、できなかったことを一つひとつ整理しています。試合中は無失点を強く意識することはなく、結果としてゼロで終わればいいと思っています」
重要視しているのは過程。クロスボールへの対応、シュートストップ、ビルドアップなど、1試合通して安定したプレーを見せた先に「ゼロ」があるという。GKの無失点試合数は、J1リーグ歴代1位の189。ストライカーの通算得点に比べると、あまり注目されない数字ではあるが、200の大台は意識している。
「切りがいいので、モチベーショの一つになっています。目指すところは、誰も手の届かない場所です」
大記録への意気込みも、普段と変わらぬ落ち着いた笑顔でさらりと話す。今週も埼玉スタジアムのクリーンシートに期待を寄せたい。何よりも、本人が一番楽しみにしている。
「ホームのゼロは、特別に気持ちいいので」
No368 04.27発行
連敗も悪くない内容。中島翔哉の奔放な動きがアクセントに
国吉好弘 サッカージャーナリスト
ペア マティアス ヘグモ監督を迎えて新体制でスタートした浦和レッズは、シーズンのほぼ4分の1に当たる第9節を終えて3勝2分4敗で12位。優勝を目指すチームとしては期待を裏切っていると言わざるを得ない。
黒星スタートから3月は2勝2分と上向いたにもかかわらず、4月に入って1勝3敗。第7節のサガン鳥栖戦は3-0と快勝したが、続く第8節柏レイソル戦ではスコアは0-1ながら相手の厳しいプレスに完敗。20日の第9節ガンバ大阪戦は前半から試合をコントロールして良い内容で進めたがチャンスをものにできず、後半途中にミスからカウンターを許して敗れた。
ただG大阪戦は、プレーの内容自体は良かった。ヘグモ監督も「ボールもよく動かせていましたし、いいコンビネーションや裏への抜け出し、ボールを奪い返しに行くアグレッシブさ。我々の基礎となるところはありました」と振り返っている。
特に攻撃におけるコンビネーションは、チームとして積み上がってきた部分だろう。中でも光ったのが中島翔哉の動きだった。この日、左のウイングとして初めてスタメンで出場し、ポジションにとらわれることなく自由奔放な動きで相手を混乱させた。
これまでは、ヘグモ監督の推し進める4-3-3で、ほぼ固定されたポジションを意識しすぎてボールの出しどころがなく苦戦してきたが、この日は中島の動きに呼応するようにインサイドハーフ(IH)を務めた大久保智明も迷いなくプレーし、空いたスペースを渡邊凌磨が活用した。
このシステムではIHが敵陣でいかにボールを受けて動かせるかが良い攻撃への重要な要素になる。中島の動きはスムーズにボールを動かすためのヒントになったはずだ。基本的なポジションは意識しながら状況に応じてブレイクする自らの判断とアイディアが必要だからだ。
右のIHとして全試合にスタメン出場している伊藤敦樹も持ち味である大きな動き、ダイナミックなプレーが見られた。決定的なチャンスを逃し、失点のきっかけとなってしまったが、相手のダニエル ポヤトス監督が「伊藤選手のように止まらずに走れる能力が脅威だった」と話しているように、現在のシステムの中で持ち味を発揮した。
中盤で効果的にボールが動けば、狙いである両ウイングの突破力もより生きるはずで、次戦は上り調子の名古屋グランパスを相手に結果につなげたい。