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REDS TOMORROW
「Red Wind」

バックナンバー
掲載 #373~#375

「REDS TOMORROW」は浦和レッズパートナーの朝日新聞社と浦和レッズが協同発行しているタブロイド紙です。
浦和レッズホームゲームの前日に朝日新聞朝刊に折り込まれます。

REDSDENKI

No.373 07.19発行

巻き返しための重要なカギとなる札幌戦

大住良之 サッカージャーナリスト

 意欲的な補強で優勝候補に挙げる声も高かった今季のレッズ。ペア マティアス ヘグモ監督の戦術浸透に時間がかかり、中位に甘んじていたが、6月下旬からの下位チームとの連戦で上位浮上が期待されていた。
 しかしキャプテンの酒井宏樹、守備の要アレクサンダー ショルツ、そして中盤に欠くことのできない存在だった岩尾憲の3人のベテランが相次いでチームを去ることが決まり、さらにようやく力を発揮し始めたオラ ソルバッケンの完全移籍もならず、ファン・サポーターを失望させた。
 一方で、22歳の武田英寿がようやく才能を発揮し始め、7月にはオーストリアから二田理央、ベルギーから本間至恩という2人のアタッカーを獲得、攻撃陣の層はさらに厚くなった。
 ただ、上位浮上を期待された連戦は、5試合中4試合を終えて2勝1分1敗。名古屋グランパス、ジュビロ磐田に連勝した後、湘南ベルマーレにショッキングな逆転負けを喫し、京都サンガF.C.とは無得点で引き分け。「ここで上位に」という目論見は崩れた。次戦の北海道コンサドーレ札幌戦も、現在最下位とはいえ、ケガ人が戻り、前節ではヴィッセル神戸と好試合を展開した後、1-1の引き分けという結果を得ている。レッズは左サイドバックの大畑歩夢がパリオリンピックで不在となることもあり、楽観できる相手ではない。
 だがここで「白旗」を挙げることは許されない。ホームのファン・サポーターの前で戦う以上、中途半端な試合は許されない。新メンバーを加えた攻撃に多少ちぐはぐな面はあっても、相手ゴールに向かっていく勢いを落としてはならないし、前線からの守備の圧力を弱めてはならない。
 ひとつの光明は、ここまでの4試合中3試合が無失点だったことだ。先週の京都戦でも、前半と後半の決定的なピンチを井上黎生人と伊藤敦樹の忠実なゴールカバーで守りきった。
 多くのファン・サポーターの期待に反して、今季のレッズはシーズンの6割を終えた時点でチームが大きく変わり、事実上の「再スタート」を切らなければならない状況になった。だがそれを嘆いていても始まらない。チーム全員でゴールを守るという意識を忘れず、そこから執拗に攻撃を繰り出してとにかく勝利をつかむことが何より大事だ。
 この札幌戦後には、2週間半の中断が入る。あすの札幌戦で勝利をつかめば、ポジティブな雰囲気で中断期間のトレーニングを進めることができる。「再スタート」が機能するかどうか、札幌戦の結果が、今季のカギを握ることになるような気がする。

No.374 08.06発行

「浦和のエース番号を30番に」今季限りで引退の興梠慎三が残した数字

杉園昌之 スポーツライター

 7月31日、本人の希望で38歳の誕生日に今季限りでの現役引退を表明。黒のスーツで記者会見場に姿を見せた興梠慎三は、清々しい表情でしみじみ話した。
「浦和のエース番号を30番にしたいと思ってやってきました。福田さんの記録(J1・91点)を抜けたことはうれしく思います」
 元祖ミスターレッズの代名詞が背番号9だったことを意識しての言葉だ。2013年に鹿島アントラーズから浦和に加入し、在籍11シーズンでリーグ戦114ゴールをマーク。クラブ歴代1位の記録である。
 14年から9シーズンともにプレーしてきた関根は、その得点力に誰よりも感謝している。
「慎三さんがいなければ、僕のアシスト数は半分くらいになっていた。中を見ないで蹴ったどんなクロスボールでも、ゴールにしてくれるんですから」
 14年9月23日、アルビレックス新潟戦でリーグ戦初アシストを記録したときのスコアラーも背番号30である。兄貴分としても大きな存在だった。関根がヨーロッパで苦しんでいる時期に「帰ってこい」と声を掛けてくれたのは興梠。23年YBCルヴァンカップ決勝の直前でメンバー外になったときには「飯でも食いに行くか」と鉄板焼屋に誘ってくれたという。
 人一倍、後輩の面倒見は良かった。同じ年齢の西川周作は、長い付き合いの中で何度も見てきた。「若い選手たちは慎三さん、慎三さんと付いて行っていましたよ」。
 ただ優しいだけではない。ロッカールームでは要所で「集中しろ」とカツを入れることもあれば、チームを落ち着かせることもあった。西川が忘れられないのは23年5月に行われたAFCチャンピオンズリーグ決勝。経験者として「アウェーは1-1でも大丈夫。ホームでは違う雰囲気でできるから」と話し、史上3度目の優勝を手繰り寄せた。
 浦和では国内外のカップ戦を合わせ、5つの主要タイトル獲得に貢献。偉大な功績を残したレジェンドは、引退会見で愛着のある背番号30の後継者に一人の名前を挙げた。「一番かわいがっている後輩」と名指しされた29歳の前田直輝は、顔をほころばせつつも気持ちを引き締めていた。
「こんな光栄なことはないです。ただ、慎三さんも話していたようにファン・サポーターに認めてもらわないと、つける資格はないと思っています」
 すべては結果で示すしかない。30番が似合う男になるために、酷暑の夏から巻き返していくつもりだ。

No.375 08.23発行

鹿島戦で見えた光明、渡邊凌磨のシュート力がカギ

国吉好弘 サッカージャーナリスト

 明治安田J1リーグ第27節、アウェーでの鹿島アントラーズ戦は両チームが高いインテンシティで激しく渡り合う好ゲームだった。特にレッズにとってはアレクサンダー ショルツ、酒井宏樹らの主力が抜けて不安定な戦いに終始した7月を経て、8月の中断の後には伊藤敦樹も海外への挑戦を決めた苦しい状況で、立て直し、修正を強いられながら良いプレーを見せることができた。とはいえ、勝ちきることも可能だっただけに、改めて浮き彫りとなった課題は決定力。チャンスを迎えながら決め切ることができなかった。
 ここ数試合、レッズの1トップは日替わりで、チアゴ サンタナ、松尾佑介、そして新加入の二田理央、この日はブライアン リンセンが4試合ぶりにスタメンで登場した。それぞれのコンディションと、相手との相性などからマティアス ヘグモ監督が選んでいる。
 各々がストライカーとしての強みを持っており、このポジションの選手がゴールを決めることが第一だが、そこは相手も警戒してくる。そこでカギとなるのが、ここのところトップ下での起用が多くなっている渡邊凌磨の存在だ。右足キックの精度はJリーグでも屈指と言ってよく、昨シーズンFC東京所属で決めたボレーシュートがベストゴールに選ばれたように、無理な体勢や難しいボールでも正確に強く蹴ることができる。鹿島戦や前節のサガン鳥栖戦でも際どいシュートがバーやポストに嫌われたが、確実に枠内に飛ばす技術を備えており、自信をもって打っているように見える。走行距離でもチーム1で、攻守に関わって今や欠かせない存在だけに、渡邊のシュートが決まれば勝利につながる。
 鹿島戦では試合後ヘグモ監督が「(井上)黎生人や(安居)海渡のような選手たちが、さらに成長している姿を見せてくれました。2人とも素晴らしかった」と名指しで称賛したようにショルツや伊藤の穴を埋めるべき選手の成長が示され今後への光明が見えた。
 直近の5試合で勝ちがないのは大きな問題だが、レッズは他チームより消化が1試合少ない状況で6位の横浜F・マリノスとの勝点差は3にすぎず、それより上の優勝争い圏内もまったく不可能な数字ではない。現有戦力でも鹿島戦のような試合ができたことを礎にここから勝点を積み上げていきたい。

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